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国際伝統医学センター

伝統医学って何?

伝統医学 伝統医学って何?
 伝統医学は、有史以来人類が培ってきた癒しの技術ですが、古代文明の発祥地にほぼ等しい地域で興ってきました。代表的な伝統医学としては、中国の伝統医学を始め、インド伝統医学、ギリシャ医学、エジプト医学などがあります。その後それらの伝統医学がお互いに交流し融合しながら、チベット医学やユナニ医学(イスラム圏の伝統医学)、インドネシアの伝統医学などに分かれていきました。一方、中南米には、インカ文明やマヤ文明と共に伝統医学が存在し、そこで使われていた伝統的な医薬は人々の間に今も受け継がれています。

 ほとんどの伝統医学は、自然の力を重視し、人体を小さな宇宙としてとらえ体内にみられる諸変化を法則化することで、特有な身体観を展開しています。さらに心と体を一つとして考え、心身一如( しんしんいちにょ ) としています。そのような身体観に従って、本来我々の体内に働いている自然治癒力( しぜんちゆりょく ) を引き出し、病気の治療ばかりか、健康を維持・増進させるための予防医学的なシステムを作り上げています。そのために、薬草を使うばかりでなく気功やヨーガなどの薬草以外の方法も利用しています。
■気功
気功
中国の伝統医学の代表的な健康増進法である気功(導引)は、体内における気の流れを整える方法です。
■ヨーガ
ヨーガ
インド伝統医学では、心身を安定させるためにヨーガの実践を勧めています。ヨーガは気功と同様に、呼吸を整え、心をリラックスさせる健康増進法でもあります。
世界の代表的な伝統医学分類
1 中国の伝統医学(韓医学、漢方医学へと移行)
2 インドの伝統医学
3 イスラムの伝統医学(ギリシャ医学が起源)
4 チベットの伝統医学
5 その他の伝統医学(インドネシアの伝統医学、中南米の伝統医学など)
伝統医学の考え方と特色
1 人体を小宇宙としてとらえ、体内に自然が存在すると考えています。
2 体内に自身を癒す力を認め、それが働くことで、病気が治ると考えています。
3 人体を、肉体のみの存在ではなく、心と体が一つと見なしています。
4 自然を重視し、自然に存在する生薬を使って治療する場合が多くあります。
5 日常のライフスタイルが疾病予防にとって大切であることを強調し、病気になる前に健康を維持・増進する方法を体系化しています。
富山の伝統医学
 江戸時代から立山信仰の信徒たちによって、立山連峰などで採れた薬草で作られた置き薬が「先用後利(せんようこうり)」の考えに従って日本中の家庭に届けられました。 この家庭置き薬が、富山の伝統医学の興りです。 専用の薬袋を作ったり、売薬版画などの宣伝効果をねらった趣向も凝らされました。

 さらに山海の豊富な食材と、風の盆に代表される伝統舞踊などが、富山の伝統医学を構成しています。

専用薬袋(せんようやくたい)
専用薬袋(せんようやくたい)
売薬版画
売薬版画
粋な浮世版画は、当時の宣伝媒体としては画期的なものでした。
金岡邸
金岡邸
現在残る配置薬業の老舗であり、邸内には、これらの薬袋や売薬版画などが保存されています。
配置薬
配置薬
必要に応じてお客様が消費した薬代だけを、後日訪問した時に徴収する「先用後利(せんようこうり)」という極めて合理的サービス制度に従って販売されていました。現在でも富山から全国に届けられています。
薬の製造工程
薬の製造工程
GMPという世界基準に従い、衛生的で高い品質の製剤が作られています。
薬品研究風景
薬品研究風景
富山医科薬科大学和漢薬研究所や富山県薬事研究所などを中心として、新しい薬の開発・研究が意欲的になされています。

中国の伝統医学
 紀元前後の漢の時代以降にまとめられた「黄帝内経素問( こうていだいけいそもん ) ・霊柩( れいすう ) 」「傷寒論( しょうかんろん ) 」「金匱要略( きんきようりゃく ) 」などの古典を基礎としています。 宇宙が「気」から創造され、陰と陽、五行という5つの要素からなると考える「陰陽・五行論」に基づいた疾病観を展開しています。

 病気は体内の「気」の流れの乱れと陰陽・五行の不調和から起こると考えます。 自然と調和した生活をすることに加えて、薬草治療(湯液)や気功(導引)、経穴(つぼ)刺激、鍼灸、推拿(すいな:一種のマッサージ)などの処方を実践することによって、体内の気血の流れが順調になり、血液循環や水分代謝が是正されて、病気の治療や健康の維持増進ができると考えます。

 なお、太極拳は、気功(導引)と同じ養生法の1つで、体内の気を充実させて気血の流れを促す武術的な鍛練法の1つです。
薬草療法
薬草療法
薬草は、体内における気の失調(気の減少や停滞)、血の異常(血の減少や汚濁)、水の異常(水の停滞)などを調整することで、病気を癒し、健康を維持・増進する働きがあります。
生薬を食事に加えた薬膳は、中国医学の医食同源の原理を象徴するものです。
気功(導引)
気功(導引)
体内における気を滞ることなく流れるようにする方法です。内気を練れば、自然治癒力を引き出すことができると言われています。

経穴(つぼ)刺激
経穴(つぼ)刺激
体内における気の流れである「経絡」と、体内外の気の出入り口である「経穴(つぼ)」を手や足を使って刺激し、体内における気や血の滞りを治療する方法です。
[電気鍼灸法]
電気鍼灸法
鍼灸
経穴に鍼を刺入したり、そこに通電したり、さらに経穴上でモグサを燃やすことで、経路における気の流れを促し、体内の陰陽・五行のバランスをもたらして、病気の治療や健康の維持・増進をする方法です。
鍼を刺してわずかな血液を出す刺絡鍼法もあります。

インドの伝統医学
 紀元前12〜15世紀のヴェーダ文献を基礎として、紀元前11世紀頃以降にまとめられた「アグニヴェーシャ・サンヒター」「スシュルタ・サンヒター」「チャラカ・サンヒター」などの古典として体系化されています。 宇宙論はサーンキャ哲学に準拠し、宇宙の構成要素としての5元素(空、風、火、水、地)を仮定しています。 これらの五元素は、人体内の3つのドーシャ(一種の生体エネルギー:ヴァータ:空+風、ピッタ:火+水、カパ:水+地)して働く「トリ・ドーシャ理論」を提唱しています。 3つのドーシャのアンバランスが病気の原因と考え、そのバランスの崩れやすさを「体質」と呼んでいます。 体質に応じた食事や薬草をとることで、病気を治療したり予防することができると考えます。
[スパイスを混合している様子]
スパイスを混合している様子
食物
食物も人体と同じように5元素からなっているのので、体質にあった食事をすることで3つのドーシャをバランスさせることができる「医食同源」の考え方をもっています。種々のスパイスを混合し食事を作ります。
[シローダーラー]
シローダーラー
オイルマッサージ
体内で過剰となったドーシャや不完全燃焼物(アーマ)などを浄化するために、オイルを全身に塗布してマッサージし、その後サウナで発汗させた後に、浣腸などを行う浄化療法がアーユルヴェーダの特徴的治療です。
オイルを頭部に垂らすシローダーラーは、脳のマッサージとも呼ばれ心身を浄化させると言われています。
[瞑想の光景]
瞑想の光景
[ヨーガのポーズ]
ヨーガのポーズ
ヨーガと瞑想
中国の伝統医学と同様に、インドでも心身一如の概念があり、心の安寧を得ることが体の健康にとって大切であるとしています。
そのためには、ヨーガのポーズや呼吸法、瞑想などを日々実践することを勧めています。

イスラムの伝統医学(ユナニ医学)
 ユナニとは、ギリシャの植民地であったイオニアがなまった言葉であり、ユナニ医学とは本来ギリシャ医学です。 特に紀元前5世紀頃のヒポクラテスから始まり、ガレノスで頂点に達した四体液説(粘液、血液、黄胆汁、黒胆汁の四体液が人体を構成するという説)に基づいた病理観を基本としています。 そのギリシャ医学がエジプトを経てペルシャに伝えられ、アラビア語に翻訳されました。 それらの知識の上にラーゼスが「マイソールの書」(10世紀)を、アヴィセンナが「医学典範」(11世紀)を著すことで、ユナニ医学が確立されました。 さらには、ユナニ医学にイスラム教の考え方や生活様式も加わりながら、イスラム圏の伝統医学として広く普及していきました。

 以下に紹介する治療法以外に、眼科的な外科療法(白内障手術)なども行われています。

[ザクロをふんだんに使ったイランの食事]
ザクロをふんだんに使ったイランの食事
食事
ユナニ医学では、体内の四体液をバランスさせることが、病気の治療と健康の維持増進に必要であると考えますが、食物の持つ「気質」(温性、冷性など)を考慮して食事をとることで、体液や気質のバランスがとれ、内なる治癒力が増進すると考えます。
[生薬市場]
生薬市場
薬草療法
薬草も、四体液や気質のバランスをとる働きがあり、病気を癒すものです。
特にシャーベットと呼ばれる甘い液体製剤は、ユナニ医学の特徴的な剤形で、現代のシロップの語源となった言葉です。
[ズルハネの風景(棍棒を投げ上げている)]
ズルハネの風景(棍棒を投げ上げている)
運動療法
イスラム圏の人々は、古来から運動によって体力を増進させて戦闘に備えていました。
ズルハネという形態が今も残っています。また、イランやトルコのオイルレスリングも同じ目的の運動療法と見なすこともできます。
[泥浴風景]
泥浴風景
泥浴
ローマ時代のディオスコリデスは、泥の持つ治療効果に気づき、「ギリシャ本草」に収録しています。
ギリシャからトルコ、イランにかけて温泉や泥浴の施設が数多く存在し、現在でも人々の健康に役立っています。

チベットの伝統医学
 チベット医学は、インドのアーユルヴェーダと仏教を起源としています。 紀元8世紀にチベットの王様の侍医であった古ユトック・ヨンタン・ゴンポは、アーユルヴェーダの古典をチベット語に訳し、チベット医学の古典の基を作りました。

 その後12世紀になり、新ユトック・ヨンタン・ゴンポは、中国医学、ユナニ医学などの知識も加えて増補改訂し「ギュ・シ(四部医典)」という聖典を著したのです。 チベット医学では、アーユルヴェーダと同じトリ・ドーシャ理論(ルン:風=ヴァータ、ティーパ:火=ピッタ、ベーケン:水=カパ)による病理観に従い、診断と治療を行います。 治療には薬草療法を主体とし、中国医学の鍼・灸、吸角(すいだま)療法、灸頭鍼療法なども使用します。

タンカ
タンカ
「ギュ・シ(四部医典)」の内容を絵解きしたものをタンカと呼びます。
全てのギュ・シの内容は、80種類のタンカとして画かれています。
[脈診の風景]
脈診の風景
診断法
他の伝統医学と同様にチベット医学でも、脈を診たり(脈診)、尿を診る(尿診)ことで体内における病態を診断し、それに適した薬草を処方します。
薬草療法
薬草療法
トリ・ドーシャのバランスを保つために、薬草は非常に大きな力を発揮すると考えます。
ヒマラヤの奥地で採れた薬草ばかりでなく、珊瑚などの生薬や動物生薬などもふんだんに使い、丸剤として処方することが多くあります。
薬草
薬草
ヒマラヤの奥地では、きびしい自然環境で育つことによって、強い薬効をもつ薬草が生育しています。
Morina kokonorica Hao(モリナ・ココノリカ・ハオ)は、マツムシソウ科植物で、中国名を青海刺参と言います。 幼い時期の全草を健胃剤にします。大量に用いると催吐作用を示します。

インドネシアの伝統医学
 インドネシアには300以上の部族がいますが、その中のジャワ族には古くから伝えられた伝統医薬ジャムゥがあります。 ジャムゥの作り方や処方の仕方は、椰子の葉に書き込まれ「ウサダ・ロンタール」と呼ばれる古典として、代々王家に受け継がれてきました。 「ウサダ・ロンタール」の起源は、インドのアーユルヴェーダと推定されています。 現在のジャムゥは人々の日常生活の中で養生薬として気楽に飲まれ、ジャムゥ・ゲンドン(ジャムゥ売り女性)が、街角を練り歩いて、要望に応じて処方しています。

 同じくインドのアーユルヴェーダを起源とする医学にはタイ医学がありますが、タイ式マッサージなどが現在まで伝えられています。

ウサダ・ロンタール
ウサダ・ロンタール
椰子の葉に書かれたジャムゥの処方。
ジャムゥ・ゲンドン
ジャムゥ・ゲンドン
ジャムゥを売り歩き、人々の日常生活の健康維持に活躍する女性達。 ジャムゥ・ゲンドンごとに異なった処方をもっています。
[種々のジャムゥ製剤]
種々のジャムゥ製剤
生薬製剤
現代のジャムゥは製薬会社が独自の処方を作り出して、市場に売り出しています。 風邪に効くジャムゥから、乳房を大きくするジャムゥまで種々の製剤が開発・販売されています。

生薬市場
生薬市場
インドネシアは、熱帯気候の地域にあり、生薬資源が豊富です。

日本、欧米、中南米の伝統医学
 日本には、平安〜江戸時代にかけて中国の医学が伝えられ、漢方医学として日本独自の発展を遂げてきました。 ゲンノショウコやセンブリなどは、日本古来からの薬草ですが、葛根や桂枝、芍薬などは中国から伝えられた漢方医学の薬草です。両者は和漢薬として、日本人にあった形態で現在でも利用されています。

 また、火山国日本の特徴として温泉が多いことから、温泉場における湯治(とうじ:温泉療法)が発達し、昔から日本人の心身の癒しと健康づくりの場となっています。

[北海道カルルス温泉郷]
北海道カルルス温泉郷

日本の温泉
温泉は湯治の場所として、古来から病気の治療や健康の維持・増進に使われています。

写真提供:日本温泉気候物理医学会、健康と温泉フォーラム実行委員会

日本の薬草 日本の薬草
漢方薬の代表である芍薬。鎮痙、鎮痛作用、血管拡張作用などをもっています。
主たる活性成分は、ペオニフロリンなどです。
[イタリアグロッタ・ジュスティ・テルメ]
イタリアグロッタ・ジュスティ・テルメ
欧米の温泉
欧米の温泉での保養風景(水着を着けて温泉にはいる)

写真提供:
日本温泉気候物理医学会、健康と温泉フォーラム実行委員会

[ブラジル人参]
ブラジル人参
中南米の薬草
現地語でPfaffiaパフィア(Pfaffia glomerateあるいはP.paniculata)と呼ばれています。

 伝統医学というと、東洋医学のように思われがちですが、欧米や中南米にも古来より伝統医学が実践されてきました。
欧米のハーブ園
欧米のハーブ園
ラベンダーを中心に、いくつかのハーブが栽培されています。
特に欧米では、ハーブが日常生活の中で病気の治療や健康増進に利用されていました。

 イギリスには大きなハーブ園がいくつも存在し、イギリス王室の認可するハーブ医学校があります。 また、1930年頃には、ハーブから抽出された精油の持つ治療効果がガット・フォセによって発見された後、直接精油を内服したり外用したり、あるいはオイルにとけ込ませてマッサージするなどの治療法が盛んになりました。 これは「アロマテラピー」と呼ばれ、日本でも普及しつつあります。

 ギリシャ・ローマ・イタリア・ドイツなどにも、温泉が多く存在し、古来より温泉療法が盛んでした。温泉などの泥を利用した泥浴療法は、現代でも、美容法や健康法として有名です。また、ギリシャ医学で温海水を使うことで種々の病気を治すことが知られ、その流れを汲む「海洋療法( タラソテラピー ) 」も行われています。

 中南米特にアマゾン流域は、生薬資源が極めて豊富です。インカやマヤ文明の発祥と共に、伝統的な医薬の使い方が代々子孫に受け継がれていました。その1つが、滋養強壮薬のブラジル・ニンジンと呼ばれるパフィアです。それ以外にペルー・ニンジンと呼ばれるマカなどの滋養強壮薬が南米でもアンデス地方で珍重されています。

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